臨床心理学の第一人者でカウンセラーだった河合隼雄先生。優しい語り口と独特のユーモアで、悩みを持つ多くの人々に悩みの解決法や生き方のヒントを与えてきた。先生は、病に倒れる直前まで、現代人の心をテーマにした興味深い講演を各地で続けてこられたが、その中から六つの講演を選りすぐって刊行──。
誰にも通じる「よい方法」などない
私のところに相談に来る人は、自分の悩みが解消したり、問題が解決したりする「よい方法」を教えてもらおう、と思っている人が多い。(中略)
人間の個性の存在を前提とする限り、誰にも通じる「よい方法」などあるはずがない。(中略)
心理療法は「便利で楽な方法」の反対である。何とか苦しみから逃れる「よい方法」はないかと思っている人に、その苦しみを深く体験することによって、「心の不思議」を実感してもらう。つまり、その人のこころのみが示す個性的な生き方を発見してもらうことをしているのである。
「こころの不思議」から
【収録内容】
CD1:新しい親子のあり方について
(77分、1989年、音源:新潮社)
CD2:「そばにいるだけ」の深い意味
(52分、1998年、音源:国際日本文化研究センター主催特別公開講演会「働くことと在ること」)
CD3:科学は人間を幸福にしたか?
(55分、2004年、音源:(財)国際花と緑の博覧会記念協会主催第3回KOSMOSフォーラム「人間の科学」)
CD4:生きるヒントがある 「物語」の中の男性・女性
(47分、1992年、音源:国際日本文化研究センター主催第2回東京講演会「物語における男性と女性」)
CD5:現代人のこころの中の母性
(44分、2001年、音源:甲南大学人間科学研究所主催2000年度学術フロンティアシンポジウム「現代人と母性」)
CD6:文化は今の世の中を癒せるか?
(58分、2004年、音源:神戸女学院大学主催学生相談室20周年記念特別講演会「文化と癒し」)
河合隼雄(かわい・はやお)
臨床心理学者。1928(昭和3)年兵庫県生まれ。京都大学理学部卒。高校の数学教師を勤めるうち、生徒たちの心の問題に直面し、ユング心理学を学び始める。スイスの「ユング研究所」に留学し、日本人で初のユング派分析家の資格を取得。ユング心理学の方法論を日欧の文化比較にまで進め、独自の日本人論を確立した。京都大学教授を経て、国際日本文化研究センター所長を勤めるが、臨床心理学の仕事に専念するため退任。元文化庁長官。2007年逝去。