限定300部
華やかな金色の紅葉と樹上に憩うつがいの小鳥との妙なる構図
―美と生の全き調和―
画面いっぱいに枝を広げた楓の老樹。背後にはやや若い一樹が幹を左右に分け、さらに紅葉した葉を繁らせている。太い幹や枝にはこの画家が得意とする墨の「たらし込み」が自在に用いられて、大きく画面を引き締め、量感と装飾性とを併せて見る者の眼を惹きつける。そして何よりこの図の特色をなすのは、一面に乱れる楓葉(ふうよう)の表現であろう。すなわち最も色づいた背景の葉は代赭(たいしゃ)、次のは黄土、さらに胡粉に軽く黄土を加えたのみと三種類の葉を、次第に重ねて描いてゆくことで、前後感が示される。逆に鮮やかな色としてはただ一個所、中央の枝に止まった二羽の小鳥の胸毛に白と朱、尾羽に僅かな群青を見るのみであり、これによって画面の中心をなす鳥の姿が浮きあがり、全図のポイントがここに集中してくる。
これらに加え画家が心を配り、画興をも湧かせたのは、本図における金色の効果であった。まず地紙自体に細かい金粉が幾条かに蒔かれ、さらに小鳥の止まる中央の枝などでは墨のたらし込みに金泥を加えることで距離感や空間性も生じてくる。最後の全部の葉一枚一枚の葉筋が丹念に金泥で書きこまれており、また地面に散り敷いた代赭色の葉にも適宜金泥が僅か重ねられる。こうした金の地塗りや金泥の輝きは、この図を見る角度、外光の当たり方次第で微妙に変化し、それが鑑賞者に不思議な法悦を味わわせる。
本図右下の落款印章や、箱蓋表の「紅葉」、蓋裏の「青邨作」という書体から判断しても、これは晩年の画家が心を籠めた貴重な意欲作といえよう。
解説 秋山光和(美術史家)
彩美版とは
「彩美版」とは、画材の質感と豊かな色調を再現するために生み出された新時代の複製画です。先端のデジタル画像処理技術と高精度プリントに版画の技法であるシルクスクリーンを施し、原画のもつ微妙なニュアンスや作家の筆遣いといった絵の鼓動までもが見事に表現されています。「彩美版」は共同印刷株式会社の登録商標です。
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