季節の風物詩――奥村土牛の名品「栗」
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格調高い優作「栗」
花木の一枝を手折って、画題とするのを切枝画(せっしが)という。古くは中国五代の徐熙(じょき)や宋代の趙昌(ちょうしょう)が知られているが、画面は小さくとも、精緻な描写により、独特な小宇宙を創出しているものが多い。ここでも土牛画伯は、鋭い折り口を見せる栗の一枝を細やかな筆遣いで描いている。若緑のイガ、葉の葉脈、虫食いの穴まで細密に描き出し、触れればカサカサと音のしそうな葉の質感の表現など、リアリティに満ちた画面にしている。栗、イガ、葉の表裏による色彩の変化と対比の妙、その上構図全体を褐色の枝がきりっと引き締めているのが心憎い。さすが古画に通じ、画格を重んじた画伯である。
この「栗」は、奥村土牛画伯76歳の頃の作品と思われる。文化勲章を受章して間もなくの時期であり、まさに高調期であった。それにしても描写の何と若々しいことか。出来栄えが気に入っていたのであろう、「土牛」のサインも力強い。
美術評論家 谷岡清(付属解説書から抜粋)
■本作では、原画に用いられた金箋(金箔を塗布した画紙)を再現するため、一枚ずつ手作業によるシルクスクリーンを施しています。熟練の職人による完成度の高い表現をご堪能ください。
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